trivial days

よしなし‐ごと【由無し事】つまらないこと。益のないこと。たわいもないこと。とりとめもないこと。

[歌舞伎]令和5年10月歌舞伎公演『妹背山婦女庭訓』<第二部>@国立劇場

国立劇場大劇場の最後の歌舞伎公演に行ってきた。演目は『妹背山婦女庭訓』の後半。

楽しみにしていた菊五郎さん、菊之助さんの親子共演は見られなかったけれど、それでも見所満載のすばらしい舞台でした。

白眉は菊之助さんのお三輪ちゃん。花道に近い席だったのだけど、求女さんへの恋心が憎しみに変わる瞬間、が、確かに、見えました。しっかり。そして、「もう目が見えませぬ~」のところで、涙、涙。最後にひと目、求女さんの姿見せてあげたかった!文楽の時もたいていここで心がきゅーっとなっちゃうんだけども。

芝翫さんの鱶七、迫力あったな~。米吉さんの橘姫も可愛らしかった。

最後の「入鹿誅伐の場」は、多分文楽でも見たことがない、初めての場面。ここで初めて物語が完結するわけで、見られてよかった!

それにしても、こんなに立派な国立劇場が閉場してしまうのは本当にもったいない。聞けば、新しい劇場の計画がまだ決まっていないらしいではないか。たしかに、建設費用がいくらまで膨れ上がるのが見通せない今の状況では仕方がないのかもしれない。だったら、閉場するのや~めたって、公演続行してくれないかな。はやり、歌舞伎や文楽は専用の劇場で見たいものです。

[美術館]ディヴィッド・ホックニー展@東京都現代美術館

日中の暑さが一段落した10月の初旬に、ディヴィッド・ホックニー展に”ようやく”行ってきた。

ちょうど日曜美術館で取り上げられた後だったので、予習になったわけだけれど、なるほど、作風が変化していくその過程が、あの壁一面の大きな作品たちに結実しているように感じた。それは必然だったのかもしれない。

いくつかの作品の正面に立つと、頭がくらりとする。自分の視野に収まりきらないからか、消失点とかの類いの仕業なのか、その理由はよくわからないけれども、不思議な感覚でした。

映像の作品も面白い。美しい。《ウォーター近郊の大きな木々・・・》は作成過程の映像も上演されていて、皆さん見入ってました。あれだけの作品をコンピューターの力を借りて生み出すなんて。どうやって思い付いたんだろう。

iPadで作成された作品群も面白い。一見簡単そうだけど、近づいて見てみると、実に沢山の色が重ねられている。テクスチャーもいろいろに感じられる。使いこなせばiPadでこんなに美しいものが創り出せるんですね~。現代美術には疎いので今更かもしれないけど、絵画がタブローを飛び出して、それでもこれは確かに絵画で、その世界がぐっと広がったと思うとなんだか愉快。そして、マティスの時代にこの技術があったら、彼はどんな作品を生み出したかしらとふと思った。

最後の展示室、全長90メートルの大作《ノルマンディーの12か月》は見ていて飽きない。何周もしてしまった。

美しい色は心を豊かにする。幸せな気持ちになる。そして新しい世界を見せてもらったホックニー展でした。

[文楽]菅原伝授手習鑑(第一部)@国立劇場小劇場

文楽の公演を観てきた。国立劇場が閉場になる、文楽としては最後の舞台。

初めてここに来たときはその厳かな佇まいにはぁ~~とため息が出たものだ。小劇場の角からは、大劇場の向こうの端っこが見えないくらい。濃いグレーの校倉造様の外壁に、国立劇場の4文字のみ、軒下には赤い提灯がずらり。到着してこの建物を仰ぎ見るだけで、自然と心が躍りました。これほど伝統芸能の上演にふさわしい劇場があるだろうか。なんだか建て替えるのもったいないなー。どうか新劇場が今以上のすばらしいものになりますように。

さて、文楽。正直言うと第二部の演目の方が好みではあるのだけど、第一部を選択したのは、勘十郎さんと玉男さんが揃ってるところを観たいという甚だミーハーな心からです。

車曳の段、小住太夫さん、碩太夫さんの成長が著しい、、、デビューの頃から聴いてるから応援したくなっちゃう。三輪太夫さん、咲寿太夫さん、芳穂太夫さん、いいねいいね!桜丸切腹の段のC太夫さんは熱唱系でちと苦手。住太夫さんの引退公演を超える語りは、多分もう聴くことはないでしょう。。最後の天拝山の段で再び籐太夫さん、一回り大きくなられたように感じたのは私だけ?

天拝山の段は今回が初めてだったけど、玉男さんが遣う菅丞相の大きいこと!ダイナミックなこと!勘十郎さんの白太夫とのかけあいも楽しいし、飛梅伝説が織り込まれてたり、ちょっとした仕掛けがあったりして、純粋に楽しめました。あまり上演されないのは、他が優れた段ばかりだからかな。それはさておき、人芸国宝二人、贅沢な舞台をありがとうございました。

新しい国立劇場の完成は2029年の予定とのこと。6年も先か~。その頃も元気で劇場に通える自分でいたいと切に願う。。。

[美術展]日本伝統工芸展@日本橋三越

日本橋三越で開催された日本伝統工芸展に行ってきた。毎年NHKの「日曜美術館」で取り上げられていて、作成過程の手間やすばらしい技術を見て一度行きたいと思っていたのだ。これまでなぜか行く機会を逸しており、今回が初めての観覧。

まず、会場に入ってみてその広さ、展示数の多さに驚いた。そして、はっと目を引く作品があちこちに。

室瀬和美さんの漆芸作品をMOA美術館で拝見して、その美しさに魂が吸い込まれるような体験をして以降、ここ数年は漆芸に関心があるのだけれど、総裁賞を受賞された作品(彫漆箱《遥かに》)はさすがにすばらしかった。。。できればもっと間近に、真上から見たかった。あの波間に浮かぶ白い球は、私には月の光から生まれた真珠のように見えました。新人賞の藤の花のもすばらしかった(乾漆蒟醬箱《瑠璃藤花》)。藤の花に手をかざしたら、すっと中に手が入りそう。

ずっと見ていくと、えっこれすごい!なんで無冠!?という作品があり、よくよく見れば、人間国宝のおかたのだったりして、そういうのがさりげなく紛れているのがまた面白かったです。

どの部門もどの作品もすばらしく、どうやってこれが作り出されたんだろう、このデザインはどうやって生まれたんだろう、と、久々に心躍るひとときを過ごした。

[美術館]虫めづる日本の人々@サントリー美術館(と、カフェ 加賀麩不室屋の加賀麩とりどり膳)

猛暑、酷暑の続く8月下旬のある日、サントリー美術館で開催中の「虫めづる日本の人々」を見てきた。

実は、生の虫は超苦手。だから絵画でも見るのは、、、とひるみそうになったけど、若冲北斎、抱一に如慶とくれば、もう行くしかないでしょ!

ってことで行ってきたわけだけれど、予想以上に面白くて、というか、これまで見てきた作品の数々で、たとえば、花鳥図などに、虫が絵かがれていることもあったはずなのに、全然観た覚えがない。見過ごしてきたんだなーということを痛感した。源氏物語なんて、虫の名前がついている帖ががあるし、屏風や絵詞などに描かれていたはずなのに。いかに自分は観ているようで観ていないと言うことがよくわかった。

全体の構成もすごく良くて、日本絵画で虫がどのように描かれてきたか、それがよくわかる、まさに、「虫めづる日本の人々」のテーマが生きている。こういう切り口の展示、いいな。

心に残った作品があまりにも多くて、図録を購入。

ひとつ、どうしても言いたいこと、住吉如慶の「きりぎりす絵巻」の一場面展示してあったんだけど、帰宅後ストーリーを調べてみたら、ものすごく面白い!これ、歌舞伎か文楽にしたら面白いんじゃないかな。ってか、身体は人間、顔(頭)はキリギリスとかセミって、こういうのこそ、歌舞伎とか文楽で表現すれば生かせるんじゃないかな。というか、自分が観てみたい!

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さて、サントリー美術館に行ったときは、不室屋のカフェでランチするのが楽しみなんだけど、前回来たのはもう数年前。好きだったお麩の卵とじ丼はメニューから消えていて、代わりに「加賀麩のとりどり膳」を。小皿にお麩を使った料理が幾種類も乗ってて、見た目がとっても楽しい。使われてる小皿がセンスいいんですよ。全部欲しくなる。九谷焼かなぁ?お麩の料理がこんなにもバリエーションがあるんだ、と、発見があったけど、お麩メインで全体的にもっちりした歯触りばかりで、少々変化が欲しいかもとは思ったことは内緒。そこはまあお麩を楽しむ膳なので。それにしてもひとつひとつの料理の味付けがすばらしかったなあ。次行ったときも頼んでしまいそう。そして、卵とじ丼の復活を願う。

[美術館]あの世の探検 ―地獄の十王勢ぞろい―@静嘉堂文庫美術館

暑さがほんの少ーし落ち着いた9月のある日に静嘉堂@丸の内で開催中の「あの世の探検 ―地獄の十王勢ぞろい―」に行ってきた。

正直、暑さで身体も心も息切れ状態、気楽に観られそうなものを、と、選択したのだけれど、これがまた大正解の面白さでありました。

一番の目玉はサブタイトルにある「地獄の十王勢ぞろい」ってことで、「十王図・二使者図」「地蔵菩薩十王図」全 13 幅。亡者が石臼にかけられてるエグい場面もあるんだけど、これがまあ見ていて楽しい。王様の装束は美しく立派で、設えや背後の画中画が様々、おつきの役人や使者、侍女などがわちゃわちゃと集まっていて、なんだかとっても楽しそう。見ていて飽きないし、とっても見応えがありました。

一番心に残ったのは、河鍋暁斎筆の「地獄極楽めぐり図」。パトロンのお嬢さんの供養のために描いたという。こんなに楽しそうな冥界ツアー。ちょっと行ってみたいかも。(ショップで複製本が売っててすごく欲しかったんだけど、値段にひるんで買えなかった)

そして、これ、もっとそばで見たい!となったのは、「妙法蓮華経変相図」。「変相図」は、仏教絵画のひとつで浄土や地獄の様子を絵画的に描いたもの(Wikipediaより)、とのことだけど、シンプルな線書きがとてもかわいらしくて、そこはまるでテーマパーク。図録には小さな画像しか掲載されていなかったので、購入しなかったけど、手元でじっくり鑑賞したいなぁ。

というわけで、行くときは息も絶え絶えだったけれど、帰りは元気になりました。自分を励ましてでも出かけてよかった。

[雑記]ヒグマ、あるいは”OSO18”

テレビのニュースでOSO18が駆除されたことを知った。OSO18は北海道では有名な、家畜を60頭以上襲ったヒグマのコードネームです。

札幌に住む前は、ヒグマは熊の種類のひとつくらいに思っていたけれど、札幌市民になって初めて北海道ではヒグマの存在がとても身近であること、その獰猛さは桁違いであること、そしてなにより衝撃だったのは、ヒグマを目撃したらそれを報告する義務があることであった。幸いそういう経験はせずにすんだけれど、ちょいちょい生活圏内に現れたり(すぐにニュースになる)、近所のハイキングコースで巣穴を調査していたボランティアが襲われたり、そうそう、札幌ドーム周辺で目撃情報があり、通行制限されたりということもあった。

さて、東京に住むようになって、エラくビックリしたのは、「ヒグマ」という名を冠したドーナッツ屋さんがあったことだ。ええっ!?こんな名前つけるなんてマジ?と思わず声が出てしまった。店長さんに、どういうつもり!?と問い詰めたいくらいだ。北海道ではヒグマによって多くの命が失われ、農作物や家畜の被害も多々、非常に恐れられている生き物なのだ。その名をつけるなんて信じられん。。。。

とはいえ、くまのプーさん、とか、ティディベアーのぬいぐるみ、とか、クマにはかわいいイメージがあるのも確かだ。かく言うウチのおいぬも”ティディベアー・カット”である。ヒグマという店名もありなのかもしれない。ちなみに、店主は道産子だそうで、北海道産の素材を使っているとのこと。そして実際のところ、そのドーナツはめちゃめちゃ美味しいのだ。実はリピート買いしています、はい。揚げたても、翌日になってもふんわりの美味しいドーナッツ、おすすめです。

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ヒグマの恐ろしさを知るには、の一冊。是非。